三菱化学鹿島事業所火災の影響は

エチレンプラントが事故になると川下製品に大打撃」のアクセス数も落ち着いてきたので、具体的にどのような影響があるのか、個人的にまとめてみたい。

三菱化学の鹿島事業所にある火災が発生したエチレンプラントでは、年間47万5千トンのエチレンを生産しているという。エチレンプラント自体2つあり、それぞれ同程度の規模であり、国内有数のエチレン生産量を誇っている。
そのプラントの1つで火災が発生し、復旧の見込みが不明という状況は、日本の石油化学生産量や、それを利用して何らかの製品を生産する各製造業に多大な影響を与える。

今回はエチレンプラントであり、わかりやすく、どの程度の影響があるか、代表的な製品のポリエチレンを例にとってみよう。

事業所配置図によれば、ポリエチレンのプラント(製造装置)は3つある。それぞれのプラントがどのような製品を生産できるのかわからないが、ポリエチレンにはいくつか種類があり、それぞれのプラントでグレード(品目,種類)の生産を分けているはずである。

ちなみにポリエチレンは、ペットボトルのふたや、レジ袋、水道パイプ、ガソリンタンク(車の)、灯油の入れ物などさまざまな製品に使われる汎用樹脂(プラスチック)である。

ポリエチレンを大きく分けると、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンがあり、それぞれ分子構造が異なるが、名前にあるように密度が大きく違い、堅さも異なる。
もちろん、高密度ポリエチレンは堅く、低密度ポリエチレンはそれより柔らかい。

高密度ポリエチレン 略称HDPE (High Density Polyethlene)
低密度ポリエチレン 略称LDPE (Low Density Polyethlene)

それぞれの樹脂(プラスチック)については、Wikipediaなどの外部リンクを参照して欲しいが、ポリエチレンは汎用樹脂であり、全世界の石油化学コンビナートで生産されている。世界中に多数のプラントがあるが、それぞれ異なり、各プラント毎に生産できるグレードは限られている。
特に、高密度と低密度は同じポリエチレンではあるが、全く違う製造装置から作られるくらいに異なっており、それぞれを代換えする事は不可能だ。

ポリエチレンの世界では、いくつかの物性(物理性能)を数値で示すことは出来るが、化学メーカーが公表するカタログ値ではほぼ同じ物でも、分子構造が若干異なる場合や、添加剤の種類が異なるなど、細かな性能では全く異なることが多い。
これを、一般的な例で例えれば、ラーメン屋は各地に存在するが、それぞれ味が違い、どこかの味をまねようと思ってもなかなか出来ないのに似ている。

したがい、エチレンプラントの1つが生きており、半分程度の生産量は期待できるため、3つのポリエチレンプラントのうち、少なくとも1つは継続して運転は可能だが、残り2つのプラントで通常と同じ運転をする事は難しい。

ポリエチレンだけで言えば、三菱化学の鹿島事業所で生産されるポリエチレンは、傘下の日本ポリエチレンが製造しており、日本ポリエチレンは、この鹿島以外に、川崎、水島、大分でもポリエチレンのプラントが存在している。工場の数だけみれば、性能などにこだわらなければなんとかなりそうではある。
しかし、現在の原油高などから、ポリエチレンに限らず、各石油化学のプラントでは生産に余裕が無く、プラント2つ分の生産を負担するのはかなり難しいだろう。

また、鹿島で生産されている物の中に、医療や、特殊な工業製品向けの樹脂があった場合は問題を複雑にする。
それぞれの製品に向けたグレードは、各プラント毎に製品認定などを各試験機関などから得ており、他工場や、他社で代換えできない物も存在している可能性がある。

一般的に、今回のような災害を想定して、原料を使用する業者は複数購買するため、ある程度は他社品で補えるが、他社にしても製造自体に余裕がない場合もあり、それがいつまで続けられるのかは不明だ。

これにより、汎用性のあるグレードに関しては他社や、他工場に移すとしても、特殊な製品は鹿島のプラントで製造せざるを得ない事も出てくる。

これで影響を受けるのは三菱化学や三菱ケミカルホールディングスだが、鹿島事業所には他社も入っており、鹿島のコンビナートを構成する全企業の問題となる。上記の日本ポリエチレンにしても、日本ポリケムなど複数の企業との合弁会社であり、他の化学メーカーにも多大な影響を与える。

エチレンプラントは川下製品に多大な影響を与えるため、今回の火災が数ヶ月や年単位で長引く場合、企業戦略にも影響してくるだろう。また、現在の原油高は異常とも言える状況であり、石油化学製品は数十年前のような左うちわのような状況では決して無く、海外企業と熾烈な競争を戦わなければならない。

この事故が、将来の日本の石油化学業界になんらかの影響を与えないように願うばかりであるが、早期に復旧できない場合は、日本の製造業にも何らかの影響を与えるかもしれない事故となる可能性がある。

鹿島事業所 第2エチレンプラントの火災について

三菱化学鹿島事業所

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